2013年3月19日火曜日

薬理について03(アドレナリン作動性神経系、コリン作動性神経系、非アドレナリン非コリン作動性神経系)


アドレナリン作動性神経系

① この神経における神経伝達物質の生合成、貯蔵、遊離、再利用、代謝について説明せよ。
② この神経が血管平滑筋を支配している場合、どのような受容体を介して血管平滑筋に作用するか。また、受容体の情報伝達機構や拮抗薬についても説明せよ。
③ α受容体のサブタイプ、作用薬と遮断薬について述べよ
④ β受容体のサブタイプ、作用薬と遮断薬、臨床適用について述べよ



① 神経伝達物質の生合成・貯蔵・遊離・再利用・代謝

• 神経終末に能動輸送で取り込まれたチロシンは細胞質でドーパーを経てドパミンまで変換される。チロシン水酸化酵素が全体の律速段階である。ドパミンは小胞モノアミントランスポーター(VMAT)により、シナプス小胞に取り込まれ、小胞内でノルアドレナリン(NA)に変わり、貯蔵される。シナプス小胞はシナプス膜にドッキングし、細胞内Ca²⁺濃度が上昇すると開口してNAが遊離する。遊離したNAはシナプス後膜や前膜のアドレナリン受容体に作用する。NAは大部分がシナプス終末や後膜に取り込まれ、一部は代謝される。シナプス終末に取り込まれたNAはVMATによりシナプス小胞へ取り込まれ再利用される。また、NAは細胞内ではMAOによって、細胞外ではCOMTによってVMAに代謝される。


②どのような受容体を介して血管平滑筋に作用するか・その受容体の情報伝達機構や拮抗薬

• 血管平滑筋にはアドレナリンα1受容体があり、この受容体に作用すると血管収縮が起こり血圧が上昇する。α1受容体はG蛋白質共役型受容体であり、アゴニストが結合すると三量体のG蛋白質のαサブユニットが分離しホスホリパーゼCを活性化する。このホスホリパーゼCは細胞内のIP₃(イノシトール三リン酸)やDAG(ジアシルグリセロール)を増加させ、細胞内のCa²⁺の放出を促進する。α1受容体の拮抗薬としてはプラゾシンやウラピジルがあり、降圧作用や前立腺弛緩作用を持つ。



③ α受容体のサブタイプ・作用薬と遮断薬

• α受容体にはα1・α2受容体がある。α1受容体は主に血管平滑筋に存在し、血管収縮などの作用を持つ。作用薬にはフェニレフリンやメトキサミンがあり、低血圧に用いられる。選択的遮断薬にはプラゾシンやウラピジルがあり、降圧作用や前立腺弛緩作用を持ち高血圧や排尿障害に用いられる。α受容体非選択的遮断薬にはフェントラミンがあり、褐色細胞腫の高血圧に用いられる。α2受容体はシナプス前膜に存在する自己受容体で神経伝達物質遊離抑制(負のフィードバック)などの作用を持つ。作用薬にはクロニジンやメチルドパがあり、高血圧に用いられる。α2受容体選択的遮断薬は臨床的にはほとんど利用されない。



④ β受容体のサブタイプ・作用薬と遮断薬・臨床適用

• β受容体にはβ1・β2・β3受容体がある。β1受容体は主に心筋に存在し、心拍増加・心収縮力増大などの作用を持つ。作用薬にはドブタミン・デノパミンがあり心筋収縮力を増強する。β2受容体は肺・肝臓・平滑筋に存在し、平滑筋弛緩・グリコーゲン分解などの作用を持つ。 作用薬には気管支喘息治療薬のプロカテロールや子宮弛緩薬のリトドリンがある。β受容体の持続的刺激は脱感作しやすい。非選択的β受容体遮断薬にはプロプラノロールやチモロールがある。心拍出量低下・レニン遊離抑制などの作用を持ち、高血圧・狭心症・不整脈に適用されるが、気管支喘息患者には禁忌である。選択的β1受容体遮断薬にはアテノロールがあり、気管支喘息患者の高血圧・狭心症・不整脈の治療に適用することができる。





コリン作動性神経系

① アセチルコリンの生合成について説明せよ。
② 神経伝達が終了したアセチルコリンはほかの神経伝達物質とは異なるメカニズムでシナプス間隙から取り除かれる。そのメカニズムを他の神経伝達物質と比較して説明せよ。また、最近話題になっているメタミドホスと関連があれば、それも説明せよ。
③アセチルコリンを神経伝達物質とする末梢神経系を挙げ、その神経系で利用されるアセチルコリン受容体をそれぞれ説明せよ。


④ ムスカリン受容体とニコチン受容体について、それらの存在部位を説明せよ。また、ムスカリン受容体遮断薬が消化管および循環系に及ぼす作用を説明せよ。
⑤ 小腸に存在するアセチルコリンの受容体について説明せよ。
⑥ アセチルコリン受容体の作用薬と遮断薬について説明せよ。



① アセチルコリンの生合成

• アセチルコリンはコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)によりアセチルCoAとコリンから細胞質で合成される。この反応の律速段階はコリンの取り込みである。ChATは細胞体で合成され軸索輸送によって運ばれて、神経終末の細胞質に存在する。アセチルCoAはミトコンドリア内膜で主にピルビン酸脱水素酵素により合成され、細胞質に運ばれる。コリンは神経系では合成されず、アセチルコリンの分解産物や膜のホスファチジルコリンが終末内に取り込まれる。生合成されたアセチルコリンは、小胞内から外へのH⁺の逆輸送と共役して小胞内に取り込まれる。


② アセチルコリンの代謝とメタミドホス

• アセチルコリン以外の神経伝達物質(例えば、セロトニンやカテコラミン)は、神経終末から放出され、神経伝達を終えた後、そのままの形で神経終末へ再取り込みされることで、シナプス間隙から取り除かれる。一方、アセチルコリンは、神経伝達を終了すると、そのままの形で再取り込みされず、コリンエステラーゼによってコリンと酢酸に速やかに加水分解され、コリンは神経終末に取り込まれて再利用される。 有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、コリンエステラーゼの不可逆的な阻害薬であるため、シナプス間隙からアセチルコリンが取り除かれないままになり、興奮が連続して伝えられ続ける状態となる。よって、神経生理機能に障害を与える。




③ アセチルコリンを伝達物質とする末梢神経系と受容体

• アセチルコリンを伝達物質とする末梢神経系には、運動神経・交感神経節前線維・副交感神経節前線維・副交感神経節後線維・汗腺支配交感神経節後線維などがある。運動神経 には筋肉型ニコチン受容体NMが、交感神経節前線維・副交感神経節前線維 には(末梢)神経型ニコチン受容体NN がある。また、副交感神経節後線維・汗腺支配交感神経節後線維にはムスカリン受容体Mがある。なお、ニコチン受容体は二つのサブタイプを持つイオンチャネル型受容体であり、ムスカリン受容体は五つのサブタイプを持つGタンパク質型の受容体である。


④ ムスカリン受容体とニコチン受容体の存在部位・ムスカリン受容体遮断薬が消化管および循環系に及ぼす作用

• ムスカリン受容体Mは副交感神経節後線維や汗腺支配交感神経節後線維に存在する。ニコチン受容体は、運動神経終末の神経筋接合部に筋肉型ニコチン受容体NMが、交感神経節前線維や副交感神経節前線維に神経型ニコチン受容体NNが存在する。
• 消化管にはムスカリン受容体遮断薬は消化管緊張の低下と運動の減少作用を持ち、消化管潰瘍や胃腸炎などの治療に用いられる。また、循環系にはムスカリン受容体遮断薬は少量で徐脈から頻脈にする作用を持ち、迷走神経過興奮による徐脈や迷走神経反射の抑制に用いられる。


⑤ 小腸に存在するアセチルコリンの受容体

• 小腸にはムスカリン受容体M3とM2がある。ベサネコールなどのムスカリン受容体作用薬を用いると、小腸は収縮し蠕動運動が亢進し、消化管麻痺などの治療効果がある。一方、ブチルスコポラミンなどのムスカリン受容体遮断薬を用いると、消化管緊張の低下と運動の減少が起こり、消化性潰瘍や腸炎などの治療効果がある。

⑥ アセチルコリン受容体の作用薬と遮断薬


• コリン作用薬には消化管運動を促進するベサネコールや緑内障治療薬のカルバコール・ピロカルピンがある。コリン作用薬にはコリンエステラーゼ作用薬もあり、重症筋無力症や排尿障害治療薬のネオスチグミンやアルツハイマー病治療薬のドネペジルがある。サリンなどの不可逆的阻害薬は強い毒性を持つ。筋肉型ニコチン受容体遮断薬は末梢性筋弛緩薬として臨床適用され、拮抗型としてd‐ツボクラリンが、脱分極型としてサクシニルコリンがある。 神経型ニコチン受容体遮断薬には自律神経遮断薬のヘキサメトニウムがある。 ムスカリン受容体遮断薬には、散瞳薬や不可逆的コリンエステラーゼ阻害薬の解毒に使われるアトロピンや胃潰瘍治療などに使われるブチルスコポラミンがある。



非アドレナリン非コリン作動性神経系


① 神経伝達物質としてのATP(アデノシン三リン酸)の作用について述べよ
② 一酸化窒素(NO)について述べよ
③ 神経ペプチドについて述べよ




① 神経伝達物質としてのATPの作用

• ATPは、自律神経や中枢神経終末のシナプス小胞に他の神経伝達物質と高濃度に共存し、神経インパルスにより、シナプス小胞から開口分泌によって放出される。ATPはシナプス後膜のATP受容体P2Xに働き、迅速なシナプス伝達を仲介し、またATP受容体P2Yに働きシナプス伝達を多様に変調させる。ATPは血管拡張作用により各種組織の血流を増加させたり、神経因性疼痛を引き起こしたりする。また、ATPが加水分解されて生成したアデノシンも情報伝達物質として作用し、神経伝達物質の遊離阻害や冠血管弛緩作用を持つ。




② 一酸化窒素(NO)

• NOは血管内皮弛緩因子(EDRF)として同定された最小の情報伝達物質である。ラジカル構造を持ち、半減期は短い。常温で気体であり、脂溶性で細胞膜を自由に通過するため、細胞内に貯蔵できず、産生されると直ちに拡散し、細胞膜をこえて周辺の細胞に速やかに浸透する。NOはNO合成酵素(NOS)によりL‐アルギニンと酸素からL‐シトルリンとともに生成される。細胞質に常在するnNOS(神経型)とeNOS(血管内皮型)は細胞内Ca²⁺濃度によって調節されシナプス可塑性の維持や血小板凝集抑制などの機能を持つ。iNOS(誘導型)はマクロファージや好中球による殺菌作用に関与している。NOは可溶性グアニル酸シクラーゼの内因性活性化因子で、cGMP産生を増加させ、血管拡張などの多様な反応を引き起こす。




③ 神経ペプチド

• 神経ペプチドは神経伝達物質として働き、ニューロン内に低分子伝達物質と共存している。細胞体で合成された神経ペプチド前駆体はゴルジ体でプロセシングを受けながら、神経終末に運ばれ低分子伝達物質とは異なる小胞に貯蔵され、遊離させるためには高頻度刺激が必要となる。サブスタンスPはカプサイシンにより遊離され痛覚に関与し、血管透過性の亢進、平滑筋収縮などの作用を持つ。ニューロペプチドYは中枢では摂食促進、末梢では血管収縮などの作用を持つ。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)はG蛋白質共役型受容体を持ち、知覚・統合運動機能に重要な働きがあり、血管拡張作用などを持つ。他には鎮痛や腸管収縮抑制作用を持つエンドルフィン・ダイノルフィン・エンケファリンもある。

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